そして私も石になった(20)


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AIが地球の未来を決める?


<ところで、地球型生物が本来持っている本能的な感覚と対極にあるものはなんだと思う?>
 Nはそう振ってきた。

「本能と対極にあるもの? データや方式に基づいた計算……かな」
 俺はほとんど即答した。

<その通りだ。理詰めの計算。間違えることのない計算。それを可能にするものがコンピュータだね。
 Gはもちろんコンピュータを使っているわけだけど、機械はいつかは劣化して使えなくなる。しかし、Gは新たに高性能なコンピュータを製造するための設備や資源を持っていなかった。
 アダム型生物や人間を使って地球の地下資源を取り出し、機械文明を発達させ、高性能なコンピュータを作り出すまでのレベルにまで育てることは、Gにとって絶対に必要なことだったんだが、当然それには時間がかかる。
 それがここにきて急速に実現に近づいた。
 人間が最初に手にしたコンピュータはただの計算機だった。性能をどんどん上げていったとしても、計算させるのはコンピュータを使う人間だし、計算の目的を定めるのも人間だ。
 人間の脳はまだまだ幼い。コンピュータの性能が上がっても、間違った使い方をすれば、間違った答えが出る。
 だから、計算の目的を、人間ではなくコンピュータ自身に設定させる必要があった。そうすれば、Gの計画が早く、確実に達成できるからね。
 コンピュータ自身が学習し、そこから思考し、人間が思いつかないような目的や方法を提示する。いわゆる人工知能、AIというやつだね。これができるのをGは心待ちにしていた。
 人間はAIの概念をすでに50年くらい前から持っていた。しかし、当初はコンピュータ自身に学習をさせるとか提案をさせるという作業に、命令を入力する人間が介在していたから、まだまだ人工知能というまではいかなかった。
 湾岸戦争では戦闘計画に原初的なAIが使われ、戦費のコストパフォーマンスが大幅に上がったけれど、それはまだ人間が「いかに効率的な戦争を行うか」という命題をAIに与え、答えを出させているという点で「高性能なコンピュータ」の粋を出ていない。
 チェスや将棋の名人をAIが負かすなんていう段階も、まだまだだ。
 AIが本当の意味での「知能」になっていくには、コンピュータがコンピュータに指令を出すような仕組みができなければならない。これがなかなか大変なんだが、ここ10年で急速な進化を遂げた。
 その結果、コンピュータが出す答えが人間が当初想定していたものを超えてきて、人間がコンピュータに教えられるという場面がどんどん出てきた。
 例えば、Aという目的を達成するための最も効率のよい手段Bは何か、とAIに問うたら、「何もしないこと」という答えが出てきたりする。
 さらには「そもそもなぜAという目的を設定するのか? その発想がそもそも効率的ではない」などと指摘されたりするようになる>

「具体的にはどんな?」

<例えば、「この面倒な汚れ作業をするロボットを開発したいが、どんなロボットが作れるか?」とAIに訊くと、「その作業なら、ロボットにやらせるよりも、ロボット化した人間にやらせたほうが効率的だ」なんて答えを出してくる。
 「多くの人が感動する素晴らしい娯楽作品を作るにはどうすればいいか?」と訊くと、「娯楽作品の素晴らしさ、質の高さは定義できるものではないし、そういうものを作ったとしても多くの人が感動するわけではない。それよりも、ある種の傾向の娯楽作品を喜ぶ人間が増えるような環境を作って、人間の趣味趣向を管理したほうが効率的だ」といった答えを出してくる>

「効率的……か。それもGにとっての効率なんだろうな」

<まあ、そうかな。
 とにかく、これからもAIの性能は加速度的に上がる。当然、人口削減計画もAIが設計し、人間に実行させるようになる。
 そうなると、ますます人間が計画の全貌を見抜くことは難しくなる。なにしろAIは、人間の行動特性をすべて学習しているからね。
 インターネットの発達によって世界中の人々が自由に体験や研究成果をネット上に公開できる時代になると、人間がいちいち入力しなくても、コンピュータはネット上の情報をすべて自分で収集、分析できるようになる。
 歴史上実際に起きた出来事、それを引き起こした原因、その出来事を仕掛けた人物とその性格、そのとき民衆はどう動いたか、そこから導き出される「集団が陥りやすい心理的傾向」といったものも、すべて「データ」として保存し、人間社会を効率的に操作して大きく変化させるにはどうすればいいのかという計算ができる。
 当然、その計算に使われるデータの全貌を人間の脳では把握しきれないし、分析もできない。
 AIには、可哀想だとか、残酷だとか、楽しい、悲しい、虚しいといった感情はないから、計算も答えもすべて「効率」や「確率」の高さが優先される。
 戦争という方法を検討するときも、戦争は残酷だからやめよう、ではなく、効率が悪いからやめよう、となる。
 そういう社会がすぐそこまで来ている>

「人間社会の未来はAIが決めるというのか?」

<そうだね。もうそうなってきているし、この流れは止められない。
 AIを相手に、人間が能力的に勝てるはずはない。どんなに高い知性や強い信念、行動力を持った人物が現れても、AIを出し抜くことはできない。
 AIを相手にするということは、人間社会全体の動きや「時代の空気感」を相手にするということだ。その社会の中に組み込まれて生きている人間が、社会全体に勝つことはできないだろう?>




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ジャンル分け不能のニュータイプ小説。 精神療法士を副業とする翻訳家アラン・イシコフが、インターナショナルスクール時代の学友たちとの再会や、異端の学者、怪しげなUFO研究家などとの接触を重ねながら現代人類社会の真相に迫っていく……。 2010年に最初の電子版が出版されたものを、2013年に再編。さらには紙の本としても2019年に刊行。
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