用務員・杜用治さんと野良猫・のぼるの会話(2)

「煩悩」とは何か


俺俺: ところで、俺は苦しい夢ばかり見る。歳を取るにつれて、苦しい夢、というよりは、後味の悪い夢が増える。なぜかね?
それはまあ、あんたら人間がよく使う言葉で言えば、「煩悩」のせいだろうね。

俺煩悩かい。ネコも仏教を学ぶんかい。
ネコは言葉を使わないから、そんなもんは分からんよ。今、ここであんたと話しているあたしは、ネコという肉体を離れているからね。あんたに分かるように言葉を使っているだけさ。

俺 ああ、そうかい。じゃあ、言葉を使って、その「煩悩」とはなんなのか教えてくれ。
あんたらが「現実世界」と思っている「この世」では、生命を持つものはすべて肉体に縛られる。
あたしは「この世」では、ネコという肉体に閉じ込められているから、あんたのようにいろんなことを考えることはない。快楽原理と本能だけに従って生きている。
一方、あんたら人間は、他の生きものに比べて極端に性能のいい脳を持っている。余計なことをいろいろ考えるし、余計な「もの」を作る。
脳も肉体の一部だから、あんたらはこの世では脳に支配されて生きている。
脳があれやこれやと求めるものが煩悩……ってことかな。
金がほしい、名声がほしい、他の人間から認められたい、美しくありたい……あたしらネコはそんなことを考える脳がないから、楽なもんだわさ。

俺 煩悩から解放されれば、楽に生きられるのか?
よく言われることだけどね。そんな人生はつまらんだろ? 人間という肉体に閉じ込められている間は、煩悩を楽しまなければ損だわな。必要以上に禁欲的になるのはアホらしいんじゃないのかね? 

俺 煩悩そのものは罪ではない、と?
「罪」とか善悪とかいう概念も、肉体にとらわれている物質世界のものなんじゃないかねえ。

どうも、のぼるの「実体」とやらは、かなり意地が悪いようだ。でもまあ、のぼるとのやりとりは退屈しのぎにはなる。
あ~、書き留めた先からまたねむくなってきた……。少し横になるかな。

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